完全攻略佐々木のとことん英文法 (実践編) 佐々木 和彦(著) 1365円

著者の英語に対する真摯な姿勢が感じられる本です。
この本を手にとったのはかなり昔のことである。その当時著者である佐々木和彦氏の本はこれ一冊しかなかったと思う。
当時、英語学習に私は行きづまっていた。
数々の疑問が脳内にあふれかえって、もうそこから先に進めない状態だったのである。
もちろん、英語教師、英語が得意と称する人々に疑問をぶつけてみたりもした。
しかし、私の疑問は「愚問」のようであった。彼らはそのような疑問をもったことすらないのか、それとも誰にも教えられなくてもわかるのか、それすらもわからなかった。返答があるとしても「多読すればわかる」「音読すればわかる」と月並みなものであったのだ。しかし、一行一行の文の成り立ちや意味に疑問を持ってしまう私にとって、そのような方法はよけい絶望的に感じられたのである。一行をわからずして、それ以上をどうしてわかれというのか?疑問は宙を舞うばかりでとにかく疑問は疑問のままであった。そのような疑問を自力で解決できない自分は本当に馬鹿かもしれないと落ち込む日々であった。そんな状態が何年か続き、英語を見ることさえ嫌になったときもあった。
しかし、この本を手にとって、私はおどろいた。
めくるページすべてに、私が疑問としていたことがしっかり前提としてのっていて、それらに詳細な解説がくわえられている。
今でこそ時制を「アスペクト」の観点から説明している本もないではないが、その当時は受験参考書としては時制にこのような観点から詳しく切り込んだ本はなかったのではないかと思うのだ。そんな風にのっているすべての単元に、斬新な切り口で解説が与えられている。
自分の疑問をちゃんと疑問として取り扱ってくれた人がここにいた!感激で私は読みふけり、重要ポイントを小さなファイルに全部まとめ、常に手元においていたものである。
扱っている分野こそ少ないが、それでもここにのっている単元は生の英語を読み解く上でまさに鍵となるものであり、それこそこの本により私は学習を先に進めることができたのである。
本を読んでいるうちに気づいたのは、著者がおそらく、若いころから英語のさまざまな単元でいろんな疑問を持ち、それらに粘り強くひとつひとつ自分で解決を試みてきたのであろういうことがひしひしと感じられる、という事である。(もちろん表立ってはそんなこと書いていない。行間と詳細な解説からにじみ出ているといいたいのだ。)それらの解答をおしげもなく出し、私のような迷える子羊であったものに、ひとつの道を与えてくれた。たとえ一文であってもおろそかにしない、そんな態度が間違っていなかったということを示してくれたのである。
そしてもっとうれしいことは、著者が、読者を「いい加減学習者」扱いしていないことだ。適当な解説でごまかせばいい、なんていうそのへんの本にありがちな態度とは無縁である。平たくいえば、学習者のレベルを信じてくれているからこそ、このような本がかけると思うのだ。
もし、私と同じように、行き詰っている人がいたら、自分の疑問を、疑問として取り扱ってくれる人がいないと嘆く人がいたら、一行一行ごとに疑問があふれかえって英語が読めないという人がいたら、私はこの本をお勧めする。
読むのに易くはないが、読めば読んだだけ、それだけきっちりと得られるものがあることを保障する。
最後に、このような本を書いてくれた著者に改めて御礼を言いたいものである。
知る人ぞ知る名著
数年前、佐々木先生の授業を初めて受講したとき、先生自身が半ば自嘲気味に「眠れない夜にどうぞ」と本書を紹介するのを聞いてから、一体どういうことかと訝っていたが、後日本屋でこの本を開いてみてようやく納得したのを、いまでも覚えている。その書面は黒と赤の二色刷りで、細かい字がぎっしり詰まっていたのだった。いやまったく、これは下手な覚悟で手を出せばアスピリンなんぞよりも強い睡眠作用を得られること請け合いであろう。
しかしながら、私はここで本書の催眠効果に敬意を表して星5つをつけたわけではない(わかっているだろうけれども、念のため)。
本書の特筆すべき美点は、その執拗と言えるまでに詳細な解説にある。わけても時制と助動詞の解説は素晴らしいの一言に尽きる。それに佐々木受講者にはお馴染みの「思考・認知・告知(本書では告示となっている)動詞」による節の判別など、この一冊には英文を前から読むための読解原則が高濃度に凝縮されているのである。
ただ残念なのは、名物のダジャレが入っていないこと・・・ではなく、関係代名詞・関係副詞の解説がカットされていることで、以前先生にその不平を漏らしたところ、先生も困ったような顔で「実は原稿は書くつもりだったのだけど、ページ数の都合上載せられないと言われてしまったんだよね」と、ちょっとした裏話を聞かせてくれたことがあった。
だが、そうした多少の瑕疵はあるにせよ、決して本書の美点が損なわれるわけではなく、受験生に限らず幅広い層の英語学習者を導いてくれることは確かである。かくいう私も本書と先生の授業のおかげで、晴れて第一志望校に合格することが出来た人間のひとりである(偶然にもそれは先生の母校であった)。著者は本書がすべての英語学習者の福音書になることを願って、原稿を書いたらしい。
本書が福音書になるか、睡眠薬になるかは、ひとえに学習者の取り組みにかかっている。願わくば遍く読者にとって前者となることを祈りつつ、ここで筆を擱くとしよう。
目から鱗
他の参考書とかでは書いていない、学習する側にとって歯がゆいのになかなかよい解説にであえない部分も、ごまかさずきちんと説明してくれている。具体例をあげて、それらの違いもきちんと説明してくれていて、私的には目から鱗だった。特に時制のところは、いままで読んだすべての文法書のなかで一番いいかもと思う。
限定された単元しかのっていないのが残念、他の部分もぜひ書いてほしい。
英語の基盤を磐石にする「隠れた名著」
この本はまさに、英語を得点源にしたい受験生が、その基盤を磐石なものにする「隠れた名著」と言えるでしょう。文法項目のすべてについて解説がなされているわけではありませんが、依然、情報量が多く、ハイレベルなので、基本的な勉強が一通り済んでから使ったほうがより効果的かもしれません。
ただ、それだけに残念なのは、巻末に索引がついていれば、使いこなすうえでもっと便利だったかもしれない、という点です。